様々な認定看護師がある中でも、病院中で活躍できる数少ない資格、それが感染管理認定看護師ではないでしょうか。
どんな科でも感染管理は必須であり、そしてとても重要です。
病院で働いていると「ICT」という言葉を聞いたことがありませんか?
ICTとは「Infection Control Team」の略。つまり、院内感染対策チームということです。
このチームは医師、看護師、薬剤師などの他職種で構成されるチームで、院内感染の要として活動します。
このチームに所属する看護師ICN(Infection Control Nurse)は感染管理認定看護師が務めることが望ましいとされています。
今日はそのICTとそれに所属するICNについてご紹介していきますね。
ICT(院内感染対策チーム)とは
院内感染対策チーム(ICT)とは、病院の中で院内感染における予防と対策、そして教育的役割を担い、他職種で構成されるチームで多角的な視点を持ち、活動するチームです。
2007年に医療安全の確保が義務化され、院内感染対策も医療安全確保の重要項目として位置づけられました。
加えて、チーム医療を推奨する流れとなり診療報酬においてもチーム医療加算として感染管理も加算の対象となっており、積極的にこのチームを作る病院が増加しています。
ICT(院内感染対策チーム)の3つの役割
ICTには様々な役割がありますが、主には3つの役割に分類することが出来ます。
感染予防
感染は起きてからでは遅いので、予防が大切。
定期的な病棟ラウンドを行い、予防対策のアドバイスを行います。
手洗いの方法から衛生材料の管理など、病棟の実際を確認し、指導します。
院内の感染マニュアルや感染管理システムの構築を行い、適宜評価修正も行います。
また、職員の感染予防のための健康管理も大切なICTの役割の一つです。
ICTは患者さんだけでなく、職員を守る役割もあるのです。
職員教育
院内感染の原因の多くが、医療者の手を介しての感染と言われています。
職員に正しい感染対策の知識やスキルを持ってもらうことは、感染を予防するうえでかなり重要です。
院内研修はもちろん、抜き打ちの手洗いチェックなど個別の指導も行います。
また、自分が感染症にかかった際の対応も理解してもらう必要があります。
インフルエンザの疑いがあるのに、無理して出勤してくる職員が一人でもいればあっという間に患者さんたちに広がってしまいます。
発症後、どれくらいの期間感染力があるのか、感染経路はどういったものがあるのかなどを指導していく事が必要です。
感染事例への対応
感染症の患者さんが入院してきた場合、その対策とその後の管理の確認を行います。
入院してきた時の対策は完璧でも時間が経つにつれて状況が変わっていく事もあるので、サーベイランス(感染症の動向調査)を行うことは重要です。
また、抗菌薬などの薬剤が正しく使用されているのかも監視していく事が必要です。
むやみやたらと使用すれば、多剤耐性菌を生む要因となってしまうため、適正な使用を心がけるよう指導を行っていきます。
ICT(院内感染対策チーム)の主な構成要員
ICTは病院の組織の中を横断的に活動していくため、他職種との連携が必要となります。
ICTの構成要員の中で、特に要となる職種を4つご紹介していきますね。
医師(ICD)
チームを統率し、感染症に関して全般的なコンサルテーションと指導を行います。
感染症に関する専門的な知識と経験が必要とされるため、感染症の認定医のライセンスなどを持つ医師が担うことが望ましいとされています。
看護師(ICN)
感染症管理の要となるのは実は看護師です。
病棟の中に一番多くいるスタッフは看護師であり、患者さんに最も近いのも看護師です。
実際、看護師が行う感染管理が徹底されていれば院内感染はかなり防ぐことが出来ます。
そのためICTにおいてもICNは中心的存在となり、病棟看護師の指導やベッドサイドの環境チェックなど、より実務的な視点から感染管理を行います。
そのため、感染症についての専門的知識が必要とされるので感染管理認定看護師がICTにいることが望ましいとされています。
薬剤師(ICP)
薬剤師は抗菌薬や消毒液のエキスパートです。
感染症管理に対して正しく薬を用いることが出来ているかという視点からアドバイスを行います。
2006年から社団法人病院薬剤師会が認定する「感染制御専門認定薬剤師」という資格ができました。
感染制御に関わる薬の知識は膨大で、現代の抗生物質や消毒剤を使いこなすだけでも膨大な知識が必要とされます。
ICPはその専門家として、ICTの中で活躍することを期待されています。
臨床検査技師(ICMT)
感染の元となる微生物などを検出するのは検査科の仕事です。
菌それぞれの特性などを理解している専門家として検査で感染症が発覚した時には可及的速やかに医師に報告し、感染症の早期発見に取り組みます。
ICNの6つの役割
ICTの中でも中心的存在となるのがICNです。では具体的にICNはどんな役割を担っているのかご紹介していきましょう。
感染予防と対策
日常業務の中では予防が重要です。
標準予防策の実施と指導、環境面で感染経路となりえる危険な場所はないか、などをチェックし対策を取ります。
感染予防は医療者の「一行為一手洗い」の徹底と感染経路を遮断できる環境調整の二つが非常に重要です。
しかし、病棟の中で働く看護師たちだけではそれらを徹底することは困難です。
感染に関する専門的知識を持った看護師が専門的な視点でチェックしていく事で始めて気が付くこともあります。
院内感染サーベイランス
感染症の動向調査、それがサーベイランスです。
いくら予防策を取っていても感染症を既に持っている患者さんが入院してくることはもちろんあります。
そうした感染症のある患者さんを常に監視し、院内感染を広げないように、もし一人でも感染を広げてしまったときに早期発見できるようにすることは重要です。
そのためのシステムの構築も重要で、電子カルテが導入されている病院では、感染症患者が病棟のどこの部屋にいるのか、一目でわかるようなシステムが導入されている病院もあります。
私が働いていた病院にもありました。このようなシステムを駆使して、感染症患者の動向を調査、監視するのもICTの重要な役割です。
職業感染への対策
職業感染で最も多いのは針刺し事故です。
感染症のある患者さんに使用した針を何らかのはずみで自分の皮膚に刺してしまう事故を起こした場合、自分が感染にかかってしまう可能性があります。
針刺し事故を起こさせないための予防策の提案、物品の変更の提案などを行い、少しでもリスクを減らすことができるようICTが取り組みます。
私も新人の時に針刺し事故を経験したことがあります。
その時は患者さんの感染症の有無が不明であったため、わざわざ採血検査を受けて頂くことになってしまいました。
幸いにも患者さんは何も感染症を持っていなかったので事なきを得ましたが、とても怖い思いをしました。
職員へ感染に関する教育
針刺しをしてしまったらまずどうするかなどもそうですし、標準予防策を徹底できるよう教育していくのもICTの役割の一つです。
いつどんなタイミングで手指消毒をしたらいいのか、どんな場所に感染のリスクがあるのか、病院で働く人であっても医師や看護師以外の職種の人たちはそこまで詳しくありません。
ICNはそういった感染に関する専門知識を持たない職員に対しても教育を行っていく役割があります。
感染管理に関するコンサルテーション
感染症のある患者さんが入院してきた場合、病棟での対策はどうしたらいいのか、このように対策を取っているが、他にいい方法はないだろうか?などの相談が、ICNのもとには寄せられます。
必要があればその病棟に出向き、実際に環境を確認してアドバイスをしたりすることがICNの大切な役割となっています。
感染管理マニュアルの作成と修正
感染に関する院内マニュアルの作成、そして新たな感染症などが流行した時にはまたその感染症に関する対応策の追加など常にマニュアルは最新情報をもとに修正もしていなければなりません。
常に新たな情報を収集し、その情報を基にマニュアルを更新し、発信していく事もICNの重要な役割となります。
ICNの活動の実際
なかなか幅広い役割のあるICNですが、では実際の活動内容を詳しくご紹介しましょう。
これはあくまで私が以前勤めていた病院での一例です。
すべての病院に当てはまることではないと思いますが、具体的なイメージが付きやすいと思います。
病棟ラウンド
週に1階は必ず全病棟をラウンドし、さりげなく手洗いをチェックしたり、点滴作成の方法をチェックしたり、患者さんのベッドサイドの環境をチェックしたりします。
パトロールの目は厳しく、ディスポのエプロンや手袋を装着したまま廊下をうろついていると即イエローカードです。
そのエプロンや手袋にどんな菌が付着しているかわからないからダメ!ということです。
まだ付けたばかりで何も作業してないと言い訳したって許してもらえません。
まだ作業前できれいだとしても、それが周りには分からないからやっぱりダメ!ということです。
感染症患者がいる場合にはその患者の状況を確認したり、何か困っていることはないかなど必ず声をかけてくれていました。
相談と指導
例えば突然、結核の既往がある患者さんが入院することになった!という場合、呼吸器科とかなら「あー、はいはい。」ってなるかもしれませんが、別の科だったらどう対処するんだっけ⁉って絶対なりますよね。
ガフキーってなんだったっけ?マイナスなら排菌はしない?あれ?空気感染だよね。陰圧室なんてないよ!とかって慌てますよね。
そういう時、ICNに助けを求めると必ず的確な対応を指示してくれます。
必要な対応とそれに必要な物品の手配とかもICNがやってくれていました。
あとはICNからの指令を全スタッフで共有して統一した対応をとるようにします。
感染のことで困ったらとりあえず、ICNに相談ということで専用のPHSがあってそこにいつもかけていました。
感染事例への対応
これがなかなか大変です。院内感染を広げないために対策をアドバイスしたり、定期的なチェックを行います。
一度、私が以前働いていた病院でも多剤耐性菌が流行ってしまったことがあり、その対応にICNはずっと追われていました。
ベッドサイドの環境改善、ドクターたちに携帯用の手指消毒剤を配布して、一行為一手洗いを徹底するよう呼び掛けたり、定期的に感染の有無を確認する検査結果をチェックし、抗生剤の使用状況を確認したり…とやることが盛りだくさんすぎて、本当に大変そうでした。
研修の開催
年に数回、院内の職員全員を対象にした感染症についての研修を行っていました。
手指消毒の仕方からインフルエンザなどの流行りの感染症の対処法など、どの職種であっても必要な知識について教えてくれます。
手洗いの研修ではブラックライトを使って洗い残しがどこに多いのかをチェックする研修というのもあります。
座学だけでなく、こうした実技講習も行っていました。
学会発表
毎年何らかの学会には参加して、自分の研究を発表したりしていました。
認定看護師はその資格を維持するために、学会への参加や研究結果の発表が必要になるので、こうした活動にも積極的に取り組んでいました。
感染管理認定看護師になるには
感染管理のエキスパートである感染管理認定看護師になれれば、ICNとして自信を持って活動できそうですよね。
では感染管理認定看護師にはどうしたらなれるのでしょうか。
教育機関への入学条件
感染管理認定看護師も、他の認定看護師と同じように看護協会が認める教育機関で615時間以上の教育を受けることが必要です。
ではその入学条件とはどんなものでしょうか。
教育機関への入学条件①
感染管理認定看護師になるためには他の認定看護師と同様で、まずは看護師としての実務経験が通算5年以上あること。
教育機関への入学条件②
5年の実務経験のうち3年以上、感染管理に関わるような活動実績が必要です。
感染に関わる活動実績とは、最新知見や自施設のサーベイランスデータ等に基づいて、自信が中心となって実施したケアの改善実績を1事例以上有すること。
また医療施設において、医療関連感染サーベイランス(血流感染、尿路感染、肺炎、手術部位感染)について計画から実施・評価まで担当した実績を一つ以上有することが望ましいとされています。
教育機関への入学条件③
更にもう一つ条件があり、現在医療施設などにおいて、専任又は兼任として感染管理に関わる活動に携わっている事が望ましいとされています。
なんだか条件が他の認定より難しいように感じるかもしれませんが、感染のリンクナースとして活動している実績があれば、大体クリアできると思われます。
気になる入学試験とは
入学条件をクリアしていざ、入学!とはいきません。
そこにはちゃんと入学試験が待ち構えています。入学試験は筆記・小論文・面接の3つです。
筆記は感染にまつわるあらゆる範囲から出題されます。微生物学、薬理学、関係法規などなど。
出題範囲や傾向は教育機関それぞれによって多少異なります。
入学説明会などに参加すると過去問を入手できたりするようなので、積極的に参加した方がよさそうです。
小論文は800時から1200字程度のことが多いようです。
テーマにある意図をくみ取って、自分なりの問題提起をすることが求められます。
面接ではその人の人柄を見ます。
どうして感染管理の認定看護師になりたいのか、認定看護師になったらどんな活動をしたいのかなど、あなたのやる気を見られると思った方がいいでしょう。
最後の関門!認定審査
入学条件をクリアして、入学試験も無事合格。
晴れて教育機関での教育を受けられてもまだ最後に関門が待ち受けています。
最終テスト、認定審査です。これは4択のマークシート方式です。
このテストに合格すれば感染管理認定看護師の誕生!ということになります。
その後は5年ごとに更新となりますが、学会での発表実績や院内での活動実績を報告する必要があります。
もし産休、育休などで活動が出来なかったとしたら、その時は申請すれば延長することは可能です。
さいごに
これからの時代、看護師としてだけでなくそこからさらに一歩踏み込んだ専門性のある資格を持つことが大切になると思います。
資格手当など給与面でも変わってきますし、ICNとして専任ナースになれば夜勤もない平日のみの勤務になるので体も楽です。
大きな病院で唯一無二の存在として活躍しつつ、不規則な生活からも解放される。こうした働き方も魅力的だと思います。
あなたも、エキスパートナースを目指してみませんか?