一般の人からすると、あまり馴染みのない神経内科。
心療内科や精神科と間違う人もいるくらいだそうです。
看護師からすると、イメージするのは脳梗塞やパーキンソン病といった、治療や看護が難しい科というイメージでしょうか。
私「Yuki」は2年ほど神経内科での勤務経験があります。
その中で、確かに神経内科での看護は難しい側面もありますが、魅力もたくさんある科だということが分かりました。
今日はそんな神経内科の魅力についてご紹介したいと思います。
神経内科ではどんな疾患を扱うのか
神経内科は脳や脊髄、神経や筋肉を扱う科です。
神経内科で扱う主な疾患は以下のようなものです。
- 脳梗塞
- アルツハイマー病
- パーキンソン病
- ギランバレー症候群
- 重症筋無力症
- てんかん
- 脳炎
神経内科で扱う疾患は、原因や治療法がまだ確立されていない難病指定となっている疾患も多く、完治というより病気とうまく付き合っていくというスタンスのほうが多いというのが特徴です。
神経内科の看護師の役割
難病など、治療や看護が難しいといわれる神経内科ですが、そんな神経内科の看護師の主な役割とはどんなものでしょうか。
日常生活の援助
麻痺などの障害があったり、意識レベルが低い患者さんが多い神経内科では、必然的に患者さんの身の回りのケア、日常生活の援助がかなり必要とされてきます。
排泄や食事の介助、車椅子への移乗や体位変換など、身体介助が看護師の業務のメインとなってきます。
ただ単に援助するのではなく、どこまでは患者自身で出来るのかしっかりと見極め、リハビリテーションの要素も取り入れた日常生活援助を行うことが求められます。
精神面のケア
完治が難しいということや、薬の副作用によっても情緒が不安定になりやすいのが神経内科の特徴の一つです。
そのために、看護師に対して強く当たることもあったり、認知症の人など気分がコロコロ変わるといった難しさもあります。
激しい感情の表出の裏に隠された本当の想いに気付くことが大切で、きめ細やかな対応が求められます。
リハビリテーション
長期にわたり、リハビリテーションが必要な患者さんが多いというのも神経内科の特徴です。
少しずつでも、機能の回復や向上がみられたときにはとてもうれしくなります。
そういった変化に気付けることも大切ですし、日常生活動作にリハビリを取り入れる視点も重要です。
また、PTやOTなどのリハビリテーションの専門職との連携も重要となるため、情報共有やコミュニケーションをこまめに取るということも求められます。
神経内科で働く看護師の1日
神経内科の病棟の代表的な1日をまとめてみました。
8時30分:申し送り・点滴準備・ラウンド準備
点滴が多いのでラウンド前の準備は大切です。
効率よく回れるよう、必要物品はラウンド用のカートに乗せていざ、出発です。
9時:検温・点滴・環境整備
身動きがとりづらい人が多いので、その人それぞれに合わせた環境整備は大切です。
細かく「これはここに置く」と決めている人も多いですね。
検温と共に点滴も同時進行させないといつまでも終わりません。
グリセレブなど、2時間かけて投与する薬なんかが滴下が悪くて落ちてなかったのを発見すると、絶望的な気持ちになります。
11時:清潔ケア・検査出し・リハビリ送迎
検温や点滴の更新が終わったら、清潔ケアです。
同時にレントゲン、CT、神経内科特有の筋電図…
神経内科は検査も多い科なので、色んな検査室からお呼びが掛かります。
そしてリハビリの送迎。時間で区切られているリハビリですから、遅刻するとその分だけリハビリの時間が短くなってしまいます。
時間通りにリハビリ室に到着するために、逆算して準備を進めなくてはなりません。
神経内科の患者さんは麻痺などがなかったとしても、動くのに時間がかかったりする人が多いので、思っているより時間がかかるということを念頭に置く必要があります。
12時:食事介助・経管栄養
食事介助も多いですが、それと同じくらい経管栄養も多いです。
姿勢の維持が難しい人もいるので、経管栄養の間もこまめに観察することが必要です。
13時:内服与薬
内服の工夫もいろいろあります。
オブラートを使う人、粉薬にしてゼリーに混ぜる人、必ず1錠ずつ飲む人…。
それぞれの工夫があるので、それに合わせた介助が大切です。
14時:清潔ケア・検査出し・リハビリ送迎
午前中にやりきれなかったケアや検査、リハビリ送迎を行っていきます。
他にも新規入院のアナムネ聴取や、明日以降の検査説明などやることは盛沢山です。
16時:検温・環境整備・排泄誘導
必要時の検温と夜勤に申し送る前の環境整備、最後の排泄誘導や体位変換を行って夜勤にバトンタッチです。
17時:申し送り・記録
夜勤への申し送りや記録を記載して勤務終了です。
患者さんへの介助が多い分、残業は多めのところが多いかもしれません。
神経内科看護に求められるスキル
日常生活援助が多く、リハビリや検査出しとなんだか忙しそうな神経内科ですが、どんなスキルが必要となるのでしょうか。
待つ姿勢
日常生活動作の一つ一つが大事なリハビリにもなるので出来るだけ自分で出来るところはやってもらうことが大切です。
しかし、動作がとてもゆっくりな人も多いのが神経内科。
つい、手を出したくなるのをぐっと我慢して待つ姿勢をとることが大切です。
時間に追われているとつい、時間短縮のために手伝いたくなってしまいますが、ゆっくりでも自分で出来ることはやってもらうようにしましょう。
コミュニケーションスキル
脳梗塞の後遺症で言語障害がある患者さんや精神的に不安定な患者さんもいる神経内科なので、非言語的コミュニケーションも重要です。
たとえば、表情や目線の動きから患者さんの気持ちを汲み取ったり、ジェスチャーや筆談なども取り入れて伝えたり、ボディータッチで不安感を和らげるなど会話によるコミュニケーション以外のコミュニケーションスキルも大切です。
ボディーメカニクス
身体介助が多い神経内科は重労働も多いというのが現実です。
しかも片麻痺があったり、拘縮があったりと通常の介助よりも難易度が上がる場合もあります。
患者さんに苦痛を与えない介助を行うためにも、自分の身を守るためにもボディメカニクスを活用した体の動かし方をしないと大変です。
神経内科で働く魅力
なんだか大変そう…と思ったそこのあなた!
確かに大変なところもありますが神経内科で働くといいこともたくさんありますよ。
私が実際に神経内科で働いてみて実感した、神経内科の魅力をご紹介したいと思います。
日常生活援助のプロになれる
食事介助、おむつ交換、体位変換などの援助はどこの科に行ったって使う技術です。
これらの援助の数をたくさんこなす分、早く正確に行えるようになります。
しかもただの患者さんじゃありません。
相手は麻痺があったり、拘縮があったり指示が入らなかったりと難易度も高めの援助ばかりです。
これはかなりの強みになるのではないでしょうか。
やはり看護師は技術が出来てこそです。
おむつもきれいに当てられてないと横から漏れたりして、余計な仕事を増やすことになるし、体位変換だってちゃんと楽な姿勢になってないと患者さんは苦痛です。
患者さんに直接行うことが早く正確に出来る看護師は信頼も得られやすいですよね。
看護師としてのやりがいを感じられる
病気の原因や治療法が確立されていない病気が多い神経内科では、治療よりリハビリの方が効果が得られることもあります。
リハビリを日常生活の中に取り入れるのが看護師の役目です。
看護の力で、患者さんを回復させることが出来る。
これはとても大きなやりがいにつながります。
また、失われた機能に変わる方法を共に考え、解決策を見出していく事は患者の立場に立った看護が出来ていると実感できる瞬間でもあり、達成感も得られます。
他の専門分野でも活躍できる
日常生活の援助やコミュニケーションスキルなど他の専門分野でも通用する技術を身につけることが出来るため、神経内科を経験すると他の科に行ってもすぐに戦力として活躍することが出来ます。
また、細かい観察力も身につくため「なんかいつもと感じが違うぞ」という小さな気付きから脳梗塞の発症を早期発見することができるなど、重大な疾患の前兆をキャッチすることが出来る看護師になれます。
私も神経内科の患者さんで印象に残っている出来事があります。
いつもより受け答えの反応が悪く、一見元気がないだけなのか、単に機嫌が悪いのかと思った認知症の患者さんでしたが、よくよく見ると顔の半分に麻痺が出ている?という事に気が付きました。
指示動作がうまく入らないので上肢や下肢の脱力の有無は曖昧でしたが、医師に報告しました。
念のためにCTを撮ってみた結果、脳梗塞を発症していたということがあり、認知症があったりして、自分の症状をうまく伝えられない患者さんに対するこまかい観察の重要性を痛感しました。
神経内科で働く看護師の苦労
魅力も多い神経内科ですが、もちろん苦労だってあります。
では、神経内科で働く看護師が抱える苦労とは、どんなものが考えられるでしょうか。
鳴りやまぬナースコール
自分一人では、色々と出来ないことが多いのが神経内科の患者さんです。
なのでナースコールは多めですね。
しかも一つ一つの動作に時間がかかるので、一つの要件をこなすのに時間を取られがち。
その間にもナースコールはまた別の場所で鳴っている…というのはよくあることだと思います。
重労働からくる腰痛
いくらボディメカニクスを駆使しても、長年やっていれば腰も痛くなります。
予防的に腰痛ベルトを巻いている人も多いです。
私は高校生から椎間板ヘルニアで腰痛もちだったので結構つらかったですね。
ベルトだけでは足りず、軟性コルセットを作ってもらってました。
援助の際には一人でやるのではなく、二人一組で回るようにしているところも多いです。
神経内科に就職するときには一度見学して、そういう体制もチェックしておくといいかもしれません。
急変リスクへの緊張感
多発性硬化症やパーキンソン病のように徐々に進行していく疾患もあれば、脳梗塞のような突然意識レベルが低下するなどの急変も多いのが神経内科。
急変リスクへの緊張感は常に付きまとい、精神的に疲れることもあります。
神経内科に向いている人はこんな人
神経内科の魅力や大変なところも含めたうえで、どんな人が神経内科に向いているか、私なりに考えてみました。
粘り強い性格の人
神経内科の患者さんは劇的に回復はしません。
日々地道な努力を重ね、小さな変化の積み重ねです。
良くなった日もあれば悪くなった日もある。
一進一退の中で少しずつ回復を目指すという感じです。
なので、外科のように手術した、翌日もう歩きましょう!みたいな劇的な変化は望めないので気が短い人には合わないかもしれません。
どちらかというとコツコツやり続けることが出来る、粘り強い性格の人の方が向いているような気がします。
患者さんが一生懸命、自分でやろうとしていることを気長に待つことが出来る、少しのんびりした性格の人というのも合うと思います。
全人的看護がやりたい人
身体的介助はもちろんですが、精神面のサポートや退院に向けた社会支援も含め、患者さんとその家族をトータル的にサポートする必要があるのが神経内科です。
おそらく、ほとんどの患者さんが何らかの不便や不安を抱えたまま退院することになるので、それらの不便や不安をどれだけ減らして退院に持っていくことが出来るかということが一番の目標になると思います。
その患者さんとご家族をとりまく環境も含め、全人的な捉え方をして広い視野を持って看護を行うことが大切です。
それは難しさもありますが、同時にやりがいにもなります。
身体面、精神面、社会面、あらゆる側面から看護を提供する視点を養いたいという人にはとてもおすすめな科だと思います。
メンタル面強めの人
急変のリスクから精神的疲弊をしやすいというのもありますが、精神面のケアでも述べたように、精神的に不安定になりやすい人が多いという特徴が神経内科にはあります。
脳梗塞の後遺症で障がいが残ったり、徐々に症状が進行していく恐怖心であったり、認知症の人で不安感が強いなどといった要因からストレスを抱え、そのはけ口を見付けられない患者さんも多いのです。
そうすると、患者さんの身近にいる看護師に対し、拒否や攻撃的態度をとりストレスのはけ口にしようとすることもあります。
患者さんから心無い言葉を投げかけられることもありますが、病気を抱える患者さんのストレスは想像を絶するものであるということを忘れず、そうした態度や言葉の裏にある不安や恐怖に理解を示し、軽減に努める必要があります。
さいごに
神経内科は重労働で、緊張感から来る精神的疲労も多くて、なんだか大変な科だというイメージを持ちやすいかもしれません。
でもその分、患者さんとは濃い関わりが出来て「ありがとう」と感謝されることも多いし、やりがいのある科でもあると思います。
そして、神経内科看護を極めれば摂食嚥下障害看護や集中ケア看護、認知症看護や脳卒中リハビリ看護の認定看護師の資格を目指すことも可能です。
日常生活援助を極め、資格も取れば自他ともに認めるエキスパートナースになれますよ。
看護の道を究めたい人にはとてもおすすめの科ですので、ぜひ検討してみてくださいね。